山形県鶴岡市の「文下(ほうだし)のケヤキ」
  山形県三山町の「山の神のケヤキ」
  (2002.7、小森さん)


 文下を「ほうだし」と読むのはなかなか難しい。鶴岡市に泊まった小森さんが北を目指してバイクを駆っていく途中に立ち寄った木である。国道7号線に沿ってすぐ近くに2本のケヤキの巨樹があり、もう一本は「山の神のケヤキ」と呼ばれている。
 文下のケヤキは、樹高28m、幹周り9.10mで、国の天然記念物に指定されている。文下の集落は、鶴岡市を南北に貫く赤川沿いにあり、JR羽越本線の鶴岡駅から北北東に3.5kmの距離である。鶴岡から出る酒田行きのバスに乗って文下のバス停で降り、川に向かって東に数分歩いた突き当たりにケヤキがある。文下という地名の由来は、文(ふみ)に関係があり、弘法大師が赤川上流から母宛に書いて流した手紙が辿り着いたためとも、また、毒酒を飲まされた余目城の城主が、ここまで逃れてきて遺言の文をしたためたためとも言われている。
 文下から北へ赤川を渡ると東田川郡三山町に入る。ここから5kmほど北の両田川橋付近の国道沿い(前川原)に「山の神のケヤキ」がある。樹高22.5m、幹周り6.90mで町の天然記念物である。樹高が低いのは、木が傾いているためである。
 最下段に、小森さんのお馴染みの紀行文の抜粋があります。

文下のケヤキ

山の神のケヤキ

 酒田方面に走り出してすぐに「文下(ほうだし)」という地名が目に付いた。ここにもケヤキの巨木があった筈だ。ちょこまかと細い路地に入り込むと勝手知ったる場所とばかりに人家の庭先に立つ「文下の大ケヤキ」の下に降り立った。やはり樹齢は千年近く、樹周は11mにも及ぶ。過去数百年の間一度も斧を入れられていないということで、殆ど傷も無く、美しい佇まいを見せている。ケヤキは根の成長が著しく早く強いため、周りに障害物があったりすると根回りが暴れまくって歪な格好になりがちだが、文下の土は軟らかいのだろう、根元はすっきりとして伸び伸びと成長している。辺りには赤い百合の花が咲き乱れ、強い香りが漂っていた。十年前と同じく、大ケヤキの背景には黒い雨雲が垂れ込めて写真に収まった。
 文下から再び一桁国道に戻って数キロも行かないうちに、またもや巨大なケヤキが大きく枝を広げている。「山の神のケヤキ」という巨木で、樹齢は四百年ほどだが、文下のケヤキと同じく根元はすっきりとしている。ただ、大きく斜めに傾いだ幹から四方八方に太い枝を広げている姿は、どことなく科(しな)を作った熟女のような艶っぽさを感じてしまう。敢えて云うならば、「横膝に崩した着物の裾から覗く白いふくらはぎが眩しく、片手を付いてそっと目元に指先を沿わす日本髪を結った芸者の風情」とでも云おうか。


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