第5回講演会報告 下段に写真



 
  73期有志による教育問題を考える"Project-K"の第5回セミナー報告
 「学力問題から学校づくりへ――『効果のある学校』論の視点から」
   大阪大学大学院人間科学研究科 志水宏吉教授

      2005年7月16日(土) 北野高等学校同窓会館3階ホール


 教育問題を考える「Proj-K」の第5回目の講演者は志水宏吉先生です。志水先生は空論の教育論でなく、生徒と先生のいる学校に入って実態をつぶさに見ることによって教育を考える事を主張され、「教育臨床社会学」という分野を拓かれました。放送大学での授業をはじめ、岩波ブックレットなど多数の著書があります。最近の小中学校の現状を分析し、教育のあるべき姿を考えるヒントを提案しておられます。
 そうした研究活動の中で、布忍小学校の「判らない時にわからないといえる学習集団作り」という成功例を明らかにされました。

1.志水教授の略歴(自己紹介)
 ・昭和34年西宮市出身、15歳で岐阜の全寮制高校に入学し、恩師の勧めで東大文3に入学後、
  教育社会学に関心を持つ。昭和61年に阪大人間科学部、大阪教育大、東大を経て、平成15年阪大に
  戻り、教授となる。その間、2年間英国の中等教育研究のため、遊学し、国際的視野を広げた。

2.日本の公教育はA(態度重視)とB(知識重視)の間の振り子運動と考えるとよい。
  @ 1947年新制(問題解決重視)A
  A 56年米ソ対立から高度成長期B(系統学習で受験地獄)
  B 70年代後半から80年代 A(ゆとり教育)
  C 02年から知識重視へB
 →Bは国力増強、国家主義的傾向
 Aは「生きる力」を求める。(知的好奇心、考える力等のあいまいなもの)

3.学力調査の実態
 1)89年の「阪大の同和地区学力調査」との比較調査を01年実施(環境の影響消去)
  @ 力は顕著に低下している。(特に算数)
  A 家で勉強していない。
  B 出来る子とそうでない子の二極分化(生活保護家庭、両親不在は学習しない)
  C 「子供に読んであげる、TVでニュースを見せる、博物館に行く、お菓子を作る、
    家にパソコンがある」等がよい環境と判明した。
 2)Effective School とは?(明確なビジョンを持ち、動機付けをし、生徒のやる気を引き出す
   仕組みの本、校長や教授が指導力を発揮する日本にない11の特徴を有する)
 3)目が輝く生徒が多い学校は上記に加え、集団作りが上手くいっており、地域に開かれた特徴
   を有する。落ちこぼれ対策として「集団の力」をうまく使っている。
 4)その他の調査(資料参照)

4.「学力の樹」を育てるにはどうすべきか?
 1)振り子A,Bの二者択一ではない。
 2)知識は葉」とすれば、多いほうがよく,かれて落ちたら更新が重要
 3)「意欲、関心度、態度は根」に相当し、居場所として家庭環境が大切。
 4)「思考力、判断力、表現力は幹」で太陽(指導)、水、土(サポート)があって初めて、
   すくすくと育つ。

5.主なQ and A
 Q1.TVゲームや携帯はA,Bの振り子に新しい要素を加えるものではないか?
  A1.調査結果から勉強の時間がとられ、関心が別に向かうのはそのとおり。フィンランドの
     PISA調査が良いのは、ゲームセンターも何もないのが一因かもしれない。
 Q2.英米の成績分布の二こぶはどんな理由か?
  A2.米国は知らないが、英国はサッチャーの88年教育改革で中央集権化と市場原理が導入された
     ことが特徴である。学区制もなく、学校に予算と人事権を移して、企業経営に近くなった。
 Q3.Effective School では教師が頑張らないとやっていけないのではないか?
  A3.日本の教師は相対的に年齢層が高い。しかし、ベクトルはバラバラのように思う。
     仮に、若手先生を入れるだけで、現場は相当活性化する。
 Q4.二こぶが固定化するのは問題ではないのか?
  A4.かつては進歩、啓蒙、発展等の「大きな物語」が共有されたが、日本はそれを喪失し、
     「小さな物語」を個々人が追っているのが現状である。
 Q5.「大人がよい背中を見せる」ということが問われているのではないか?
  A5.「今の小学生は脳と身体に汗をかいていない」とある評議会で意見書が出た。親が
     かまいすぎるし、計算は電卓を使えばよいという安易な考えもある。しかし、駅伝を
     させれば彼らはしらけないし、そろばんを活用しようという町も現れた。
 Q6.布忍小学校の実情は?
  A6.生活指導を明確にやっていた。判らないことははっきりそういう雰囲気を作っていた。
     宿題も低学年1時間、高学年1.5時間毎日やっている。批判的な親もいないし、不登校
     もなく、明るく楽しい雰囲気が満ちていた。成果が目に見えるだけに、先生方は長時間
     労働でも充実感にあふれていた。
     自分としては、次のテーマにて寝屋川市で成功事例の研究をやってみるつもりである。

講演の後、志水先生を囲んで

後の夕食会