第4回講演会報告 下段に写真



 
  73期有志による教育問題を考える"Project-K"の第4回セミナー報告
 「大阪の教育改革――学力向上と非行克服は可能か」
   大阪府教育委員会教育振興室長 成山治彦氏

      2005年2月26日(土) 北野高等学校同窓会館3階ホール


 教育問題を考える「Proj-K」の第4回目の講演者として、大阪の教育政策を担う第一人者である 成山治彦氏から、現在及び今後の大阪府の教育の現状と目標について、熱いお話を伺うことが出来ました。成山氏は、大阪大学文学部卒業後、羽衣学園、柴島高校、住吉高校を経て大阪府教育委員会に入り、要職を歴任して、現在は教育監という教育行政を代表する立場におられます。総合司会は土谷克己さん、開会の辞は京都大学大学院教授 梶本興亜さん、討論司会は松井久彦さん(いずれも73期)にお願いしました。また、成山氏のご紹介は、古くからの友人である高橋英樹氏にお願いいたしました。

1.教育改革は可能か?
 ・中山文科省大臣は「ゆとり教育は問題」から「大事な部分もある」と軌道修正した。始めて2,3年で
  マニュアルもないため評価は早計と思う。
 ・「総合学習」は教師次第であると思うし、こうした議論は扇情的、お茶の間的なものではなく、
  歴史的経緯を踏まえたデータに基づくものでなければならない。
 ・1000時間強の授業時間が900時間余りとなった反動で算数、国語の時間が減った。しかし、小学生が
  23時頃に塾帰りを見るのも異常である。
 ・「基礎的知識」は「旧学力」、「考える力」は「新学力」とされるが二者択一ではない。
 ・「知」と「勤勉性」が日本の高度成長を支えたが、前者は海外へ流出しつつあり、後者は生産の海外依存が
  一般化して、国力が弱まるかに見える。
 ・「総合学習」は、本来、おちこぼれを少なくし、基礎的力、考える力を兼ね備えた、出来る子も育てるという、
  二兎を追う高度なターゲットがあった。

2.教育施策の歴史的な展開
1)戦後教育はいわゆる「46答申」(今後における学校教育の指導について)に集大成されると思う。
  この中で、戦後30年を総括し、@人間形成の多面性、統一性、A科学発達と経済成長、B都市化、大衆性が
  連帯意識の希薄化によって、家庭が崩壊して「物質的豊かさと裏返しの心の貧しさ」をもたらした。
  その結果が「逃避傾向、暴力の多発、性の乱れ」に繋がった。社会風潮として、敗戦の影響は
  脱したものの、量的増大が質的変化をもたらし、多様性が消えて、同一化に向かい「期待される人間像」
  なるものがもてはやされた。
2)次に中曽根首相の「臨教審」という文部省をバイパスする提言が出された。
  ここでは、「7人の提言」で「教育自由化論」の名のもとに、「過度の受験競争の反省」や「形式的平等の
  排除」、「生涯学習の奨励」等が述べられている。
3)平成3年の「中教審」答申が出された。
  背景として、高度成長があり、「高校全入」がほぼ達成された。「学歴偏重」という副作用を産み、
  「平等と効率」は教育現場で両立しがたくなったことが指摘されている。
4)「学習指導要領」が2度改訂された
  「荒れる学校」「いじめ問題」は本来、単一の指導要領では解決不能であるが、「標準」というファジーな
  表現で逃げざるをえず、結果、「高校卒業証書」は「50%は落第」に眼をつぶっている。
  この中で、「スーパーサイエンス高校」や「骨太教育」という前向きの方向性も出されたが、
  「大学の教養課程の廃止」は新たな問題を惹起したように思う。

3.学力調査と向上策
  PISAとTIMSSで日本は国際的に教育で遅れを取ったとされるが必ずしも正確ではない。前者は記述式で
  「解決能力」を判定し、後者は「選択肢」でカリキュラムの達成度を測っている。後者の後退は授業時間の
  減少と関連するが、PISAの低下が問題と考える。端的に言えば「読解力」が落ちている。これは、
  親離れせず、塾依存という自律性の欠如と考える。
  「家庭学習の建て直し」は家庭の崩壊をソーシャルワーカーをも動員して行う必要がある。

4. 非行と不登校
  大阪府の不登校は小学生1800人、中学生8800人で、50%が「遊び性」、30%が小学校時代の「心因性」
  によると見ている。対策として「心元気PRJ」を立ち上げたい。
  彼等には「居場所」を作ってやり、「自己肯定感」を植え付け、「学校の楽しさ」を実感してもらい、
  「生活のリズム」を持ち、将来の進路」に希望を持たせたい。そのために、「保護者の関わり」が
  欠かせない。「開かれた学校作り」も大切で、地域との関わりやボランテイア活動も期待している。

5.家庭と地域社会の教育力の再構築
  社会規範の確立が課題であり、東京と異なり、「地域コミュニテイの再生」を企図している。(東京は
  自己責任と割り切っている)われわれは、「核家族化」が子供への関わり方について、親が解らなく
  なっているとみており、何とかサポートしたい。「大阪教育7日制、やる気!本気!げんきっず!」
  の中で、「学力向上PRJ」、「こころ元気PRJ」、子供元気アップPRJ」「学びネットおおさかPRJ」
  をH17年度に取り組む。

5.主なQ and A
 Q1.「先生のゆとり」が大切ではないのか?昔は先生も勉強していたように思う。
  A1 確かに5日制で逆行しており、批判もあってつらいところです。
  N. 人事政策が関わっている。昔は北野しか知らない先生が「名物先生」として、存在できた。
  また、5日制は労働政策から 教育6日制は行政政策からとルーツが違う。
 Q2. 成山先生の柴島高校での実践的建て直しの実例をお聞きしたい。
  A2. 当校は設立5年目で校内を安心して歩けないほど大荒れの状態で、建て直しに派遣された。
  生活指導が中心で、「自分を誇れない」生徒を夜間も踏み込んで、彼等の目線に立って、「子供のよさ
  を先生方と連携して引き出す努力をした。結果は、「涙涙の卒業式」を迎えることが出来た。しかし、
  残念なことに、就職直後に離職した子供も多かった。やはり、「温室化教育」には限界があり、
  小学校時代からの「自立化教育の必要性」を痛感した。
 Q3. 「ゆとり」は与えられるものではなく、心の問題ではないのか?おじいちゃん、おばあちゃんも
  孫をペット化して猫かわいがりしすぎと思う。
  A3. そのとうり。外部から応援を期待する。
 Q4.大阪の独自性はよいことと思う。具体的にはどうするのか?
  A4.まず信頼関係を取り戻すことだと思う。東京は管理指向で60%が私学を受け、教育委員会も発言権
  がない。学区製も全廃で出来る子は私学へ流れる。大阪はこころを大切にしたい。
 Q5. 地域活動をしても常識のない親が多い。教師、親、子供が一同に会してネットワークを形成しないと
  ダメかと思う。
  A5.「子供元気アップノート」はささやかな試みと考える。
 Q6.教員の採用、研修はどうなっているのか?
  A6. 小学校1000人規模の退職と言う、2007年問題を控えている。教育大学ともコラボレーションの試みを
  「まなびんぐサポート」の形で実習を兼ねてやっている。「10年目研修」までの空白が問題で、
  「2年目以降育成問題」に取り組んでいく。
 Q7. 学区制変更はどうなるのか?
  A7. 進学校の先生は「生活指導校」に必ずしも向かない。多様化が生かされ、選択可能なシステムを
  構築したい。
 Q8. 家庭の教育水準にも差がある。地域の役割も大きくなると思うがそのシステムはあるのか?
  A8. H11年に「学校支援人材バンク」を作り。数千人が登録している。総合学習でいろいろと役立てて
  いるようだ。
以上(久保記)

  成山氏を中心とする大阪府教育委員会の教育成策については、明治図書出版の
    「行政が熱い 大阪は教育をどう変えようとしているのか」(ISBN4-18-618517-4)
  に詳しく書かれている。

講演する成山氏



講演の後、成山氏を囲んで